はじめての料理

  • 2020.03.25 Wednesday
  • 20:03

初めまして!

このブログは

『これから一人暮らしするから自炊ができるようになりたい』

『定年して妻に邪魔者扱いされたくない』

『育児休暇をとったから妻になんか作ってやりたい』

なんてこと思ってる人に初めての料理のお手伝いをするために書いてます。

『いままで包丁なんて数えるほどしか持ったことない』

『何から始めたらいいのかわからない』

なんて人も大丈夫ですよ。

だってみんな初めてなんてそんなものです。かくいう私もそんなものでした。

でも、いい加減で適当なことは教えませんよ!

これでも幼少期から料理が好き(食べるのも)で高校卒業して大阪の某調理師学校卒業後

中華料理の世界に入って30年を過ぎる調理師です。現在中華料理店を経営しております。

よく中華だからって中華料理しか作れないって思われがちですけど料理の基礎なんてどれも一緒ですよ。

中華料理の世界はらーめん、餃子からフカヒレ、ツバメの巣まで、小さな中華料理店から中華街、果てはホテルの調理まで経験してきたのでだいたいはわかります。

コックさんの世界ではお店で出す料理はお仕事、ほんとに試されるのは先輩たちに出すまかない料理。

中華だからって中華料理ばっかりたべてるわけじゃないですよ。

プロ相手に戦ってきたからこそお客さんに出せるんです。

そんなプロが教えるシンプルでおいしい、凝ってるけど意外と簡単な料理を知りたくないですか?

この世で一番おいしいものを一番食べてるのはどんな金持ちでもないその料理を作ることのできる人です。

さあ!あなたもその一人になるために始めましょうか?

最初の1歩!

  • 2020.03.27 Friday
  • 15:37

さて、最初に何から始めたらいいのか?

みんなが知りたいのは何かなー?

うーーん、やっぱり調理師学校で最初に習うこと

それは『包丁について』

でも、包丁と一言で言ってもいろいろあるもんね。

和食で使う和包丁、洋食用の洋包丁、中華の中華包丁。

包丁で切るところの金属は鋼(はがね)と言われます。

この鋼の片側に他の金属をつけて鍛えたものが片刃(和包丁)。ちょっと例外もありますが。

真ん中に入れて両脇に挟んで鍛えたものが両刃(洋包丁、中華包丁)。

それぞれに長所、短所があります。・・・いや得手不得手といったほうがいいでしょうね。

和包丁には平刃(菜切り包丁)、柳葉(刺身)包丁、出刃包丁、和牛刀なんてのもあるよ。

洋包丁にはぺティーナイフ、牛刀、洋出刃、ほかにもヒラメ専用ナイフみたいに専門ナイフもある。

中華は1種類でしょうなんてそんなわけないでしょ。中華は刃の厚さ、大きさでいろいろあるんですよ。

北京ダック用とか点心用だとか前菜用だとかいろいろ・・・

家庭で料理するのには使いやすい万能包丁(三徳包丁)とぺティーナイフの二本かあとは出刃が有れば足りると思います。

お魚下ろしたい、刺身を切りたいという方は和出刃、柳葉を追加。

そんなに高いものでなくても手入れをしっかりすれば大丈夫。

いいかえれば高いものでも手入れをちゃんとしないとゴミです(いや本当にほったらかすとすぐ錆びますよ)。

ステンレスのものもありますけど錆びにくいだけで錆びないわけではありませんからね。

そしてここからが大事。調理師のサイトはここからが大事。

そう買った包丁の手入れのために砥石を買ってください。これ大事!

いい包丁買うならなおさらです。

荒砥は修復成形用、普段使いの中砥、仕上げ砥は文字通り仕上げに。

まあ中砥があればいいでしょう。裏表両面で2種類ってのもあるよ。

次回は研ぎ方について書きまーす。

 

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第2歩

  • 2020.03.29 Sunday
  • 22:06

さあ!砥石と包丁はそろったかな?

買ったばかりの包丁は切れ味抜群だろうね。今は研がなくてもいいけど切れ味悪くなったら読んでね。

買ったばかりの包丁は工業用油が塗布してあるものが多いからしっかり洗ってね。

ではまず砥石は水につけておいてください。30分から1時間ぐらいつけておくといいでしょう。

お店ではよく使うので常に水につけてあります。

水につけた砥石

包丁は先端のことを切っ先、刃の下のほうをちもと、刃元などと呼びます。背中側をみね、持つところをツカ、柄。

和包丁の平刃(菜切り包丁)以外は刃に丸みがあるよね。これがあるから切りやすいんだよ。

引いて切るもの、押して切るもの、たたいて切るもの用途によって刃の形状が違います。

国によっては危ないからって刃先を折ってしまう国もあるくらい。

ここで調理師ならではの一言、『自分の使いやすいように形状を変えちゃってもいいんだよ』

写真にある私のぺティーナイフは本来の丸みを逆にえぐった感じに研いであります。

細工をしたりする用のナイフのために切っ先を鋭く薄くしてあります。

道具は自分の使いやすいように変形させていいんですよ。

自分の手の代わりになるものですから、その時の用途によってアタッチメントを変えるように。

長い年月をかけて出刃になり柳葉になりぺティーになったんですから。

まあそんなことは普通に使えるようになってからですけどね。

では研いでみましょう。

まず、切っ先を写真のように乗せます。その時包丁の背(ミネ)を少し浮かせてみてください。

刃先の上に指をのせてみるとわかると思いますが刃の面と砥石の面がピタッとくっつき始める場所がわかります。

その角度が研ぐ角度です。研ぎたい場所はどこに力がかかっているかによってきます。

そんなに力をこめる必要はありません。刃金は切っていると変形することでもわかるように、そんなに固いものではありません。

テレビや漫画で見られるような一生懸命に研ぐのは間違っていると思います(個人的主幹)。

曲がったもの、つぶれたところを成形して直すことがすべてです。

力任せに研いで包丁が小さくなったことを自慢するのは愚の骨頂だと思います(個人の見解)。

そういう自分もやってきたことだから思うんです。1本の包丁を長く使おうと思ったら丁寧に使う、ちゃんとした知識で手入れする。これしかありません。たとえ毎日使って研いでもよっぽど固いものを切って刃が欠けない限りそんなに成型することはありません。だいたい固いものを切って欠けるならそのものを切るのにその包丁はあっていないということですから、おのずとあほだとわかることでしょう。若いコックさんがやるよくある失敗です。私もやりました。言い訳を言えるなら感覚を覚えるために包丁を一本つぶれるぐらいまで研いでみたと胸を張って言ってもいいでしょう。

話が横道にそれましたが、結局、切れなくなった箇所だけ研げば(成形)いいんです。

それを知るためにもう一つ写真を見てください。

爪の上に刃を当てて力を入れずに少し前に押してみてください。滑りましたか、それともぐっと爪に食い込みましたか?

滑ったら刃がつぶれているということです。そのつぶれているのがどの箇所がどこなのか探してください。そこだけ直せばいいんです。でも想像してください刃の形状はV字になっているから切れるんです。鋭角であれば薄く、柔らかいものでも切れる。しかし力をかければ刃がつぶれやすい。鈍角であればつぶれにくく硬いものも切れるが細かい作業には向かない。どんな形になっているか、どういう包丁(刃)にしたいかによって研ぎ方は変わってきます。

先ほど砥石に刃が当たるところで研ぐと言いましたがもっとミネを持ち上げれば研いだ後は鈍角に、寝かせれば鋭角な刃になります。そしてこれが大事。両刃の場合同じ角度同じ力で表も裏も同じ回数研いでください。感覚でやっていると必ずV字が左右どちらかにずれていきます。これを治そうと何度も研いでいるうちにまがった包丁になり荒砥で成形する羽目になるのです。

5,6回ずつ研いだら爪で確認。これを繰り返してください。最小限でいいんです。

和包丁(片刃)の場合は片面はさっきと一緒ですが反対側(平らな方)は返しと呼ばれる研いだ後のバリ(出っ張り)をとるぐらいの感覚でいいです。そしたらまた爪で確認。V字が半分になったと思えばわかりやすいかな。

もう一つは砥石についてなんですけど写真を見てください。

変形してますよね。これはよくない例です。一方向一か所だけで研いでいるとそこだけ削れてしまうんです。そうなったら最後砥石同士(まがっているものより荒いもの)でこすり合わせて平らに戻すという荒業をしなくてはなりません。そのため包丁を研ぐときは同じ場所だけでなくまんべんなく使うことを心がけましょう。前後を変えることも忘れずに。ただ上下は買えちゃだめですよ。がたがたになってそれこそ取り返しがつかなくなります。あと荒砥の成形の場合はあまり大きな声では言えませんが縁石やブロックなどコンクリートの平らな部分をお借りして・・・・当方は一切責任を取りません。

さあ、やってみよう!

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第3歩

  • 2020.03.30 Monday
  • 16:35

包丁の調子はどうですか?

質問があったら書き込んでね。できるだけ答えてみようと思います。

『では早速切ってみましょう』というと思ったら大間違いですよ。

次はまな板を用意しましょう。

まな板はあるからという人もちょっと考えてください。

まな板だってずっと使ってればすり減ってくるのです。

包丁が切れても相手がへこんでたら切り離せないからつながっちゃいます。

へこんだまな板の上ではまっすぐ切れません。

別に高いものを買えとは言いません。

大きくても、小さくても四角でも丸でもかまいません。

とにかく平らなもので滑らないものを使いましょう。

では最初は一般的な長方形のまな板でやってみましょう。

まな板が用意ができたら滑らない様に下に滑り止め(ゴムでも濡れ雑巾でも何でもいいです)を置きましょう。

そしてまな板を置いたらその前に立ちまな板の上で手(腕組みじゃないよ)を組んでください。

自分と両腕で三角形ができますね。それが切るときの姿勢です。

しかし切るものに対して切り進めていくとまな板から外れてしまいます。

そのために右足(左利きの人は左足)を一歩引いて半身(あれ?これ剣道用語かな?)で構えましょう。

そうすると三角形の左腕(左利きの人は右腕)がまな板と平行になりますね。そして包丁を持つ手がまな板と垂直になりましたね。

これで切り進めて行ってもまな板から外れることはありません。これが基本姿勢です。基本姿勢は絶対に崩さない。

そしてここからが調理師の特別指南。

頭の位置は動かさない!

必ず真上から見ること!包丁の真上から見てください。ちょっと切っていると包丁右側に視線が行く。すると包丁が斜めになっていく。すると切ったものが曲がっていくんです。

あとまな板は全体を使ってください。材料をずらして同じ場所で切れという料理研究家とかがいますが現実的ではありません。

こういうのはあんまり料理していない人の意見です。同じ場所で切り続けたらそこだけへこんでまた買わなければなりません。

次に中華で使う丸いまな板について。この場合も三角形を作るのは同じです。しかし半身になる必要はありません。長いものを切ろうとしてもどこでも直径は同じなので材料を斜めにおいて切る方が自然に腕を動かしやすいです。四角いまな板しか知らないとこの特性がわからないのでちょっと戸惑うかもしれませんが、要は人間工学的な理屈を理解して使うことが道具をうまく使うことへの近道です。どうしてこの道具は歴史を重ねてこうなったのか、どう使うために生まれたのか、すべては理解することです。

テレビドラマなどでかっこよくみせることとはちょっと違う、正に美しさはここにあります。

ではどうぞ心行くまで切ってみてください。

 

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第4歩

  • 2020.04.02 Thursday
  • 20:48

さて包丁でいろいろ切ってみましたか?

よく切り始めると早く切ろうと思ってやった結果切ったものはみなばらばらの厚さ。

上は薄くて下は厚かったりして、何だこりゃとなります。

『そんなことどうでもいいよ、早くレシピ教えろよ!』という人は早めにこのブログを読むのをやめて

クックパッドでも見に行ってください。このブログであなたに教えることはありません。

みなさん。技術は千里の道です。あなたは1歩づつです。その先にしかないものそれこそが奥義です。

北斗神拳好きの方にはこういったほうがいいでしょうか?その先にこそ『天衣無縫』があるのです。

私が教えてあげられるのはマジックでも裏技でもありません。

王道、天道です。(ちょっと大げさ!)

飾りをそぎ落とした最短の道です。

あっちゃこっちゃ曲がってぶつかって失敗してきたものを省いた正攻法です。

調理師になるにはそれ(失敗)が大事ですが皆さんにはいらないでしょう。

だからこそ武道の型にあたるものをお教えします。

反復して自分のものにしてください。

そこで大事なことを教えます。

調理とは科学と芸術。味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚の五感で感じ、体にいいことを考え、四季を楽しみ、歴史を感じる。

大げさに言うのらば体にしみる詩や音楽、絵画のようなもの。

切ること、熱を加えることは物理、食材、調味料などは化学の賜りもの、すべては計算された理系ならではの技術。

いろどり、盛り付け、音は美術系。

それを可能にさせるのは文字どおり手足となる道具を使いこなす技術。

あなたも何日か反復練習を重ねていれば気づくことでしょう、

包丁の先が、お玉が、鍋が自分の手のように感じることを。

漫画の例えばかりで申し訳ありませんが『ハンターXハンター』という漫画で

オーラの練習、トンネルを掘るときにスコップを体の一部だと考えオーラをまとわせるといいという場面がありました。

そんな感じです。それぐらい技術と道具は大事です。どちらが欠けてもいい結果はでないでしょう。

そう1歩づづです。切るときも一回づつ丁寧に。同じ厚さ同じ大きさにスライスすると包丁にくっついたものが順次上がってくる現象を見るでしょう。それが上達した証拠です。それができるようになったら少し早く、次は2回連続、3回・・・今度はリズムで。

正確にできるようになることが大事であって、早さは二の次ですよ。

包丁が手のように使えるようになると中華料理でよく見かける花人参(柱状の人参を花型などに掘って金太郎あめのようにスライスする)が作れるようになります。これは一定の力、一定の速度で切ることにより包丁でカーブを描けるようになるとできる技。

でも切れない包丁ではできません。勢いあまって手を切るよ。それがわからないぐらいの人はやっちゃだめ。

毎日切って、なれることが大事です。自分の包丁のこと、技術の程度をよく理解しましょう。

歩けるようになってから走って跳んでくださいね。

では次回は肉の切り方についてお教えしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

Ra-men Diver (らーめんダイバー) dive-1

  • 2020.04.03 Friday
  • 18:25

 俺は、黒石化学という会社で耐熱繊維を研究している一人の化学者だ。いや、だった、が正しいか。このての研究においては、世界でもトップクラスの会社である。その中でもあるプロジェクトを任せられていて、近年、大いに成果を上げていた。軍事にも応用できるくらいの代物なので、デリケートなところだが。
 ある理由があってこの研究を続けてきた。それは、俺が、17歳になって間もない梅雨入り間近の6月のことだった。当時中学生になったばかりの13歳だった妹が、不治の病に侵されていると言われたのがきっかけだった。これが青天の霹靂というのだろうか、田舎でのほほんと暮らしていた17歳の俺には、目の前の白衣を着たおっさんが、何を言ってるのかよくわからなかった。妹はいつもと変りなく、毎日元気に学校に行き、好きな剣道をやるために部活だけでなく、道場にも通うぐらいだったのに、突然そんなことを言われても、(アニメかよ)と思うぐらいだった。
 しかし、その日を境に妹は時折目まいがすると言い出し、学校も休みがちになり、道場にも通うことができなくなった。医者のすすめで大学病院に入院させたが、症状を遅らせるのがやっとだった。医者に聞くと病名すら特定することができないらしい。対処療法で症状を抑えるのがやっとということだった。その医者に紹介してもらい、他の有名な医者たちにも症状を伝え、治療方法を探したが現代最新医学をもってしても胸のつかえをとってくれる答えは返ってこなかった。14歳の時に両親亡くしていた俺は、妹を守らなくてはと必死だった。医者に希望を持てなくなった俺は、オカルトに走った。神社、寺、教会、ブードゥー、心霊手術、噂を聞いたら何でも行った。変な水も飲ませた。何だか知らない布でバリアーも張った。あきらめかけていたころ、ある情報を入手した。またか、と思いながら飛びついたその話とは、およそ眉唾物であろう伝説の秘薬の話だった。
それは、中国四川省に伝わる秘薬で、ある山奥の集落の村長の李家に代々受け継がれるものだ。見たこともない青い宝石を削り薬として飲ませると、たちどころに治ったという。しかもその薬で助かった少女は、妹とそっくりな症状だったという。胡散臭い話だとは判っていたけど、今はそれしか頼れるところがない。必死に叔父に頼み込み、中国に飛んだ。

 今も成都から少し離れた山間の村に、ひっそりと暮らすその村長の一族は、人情に厚く礼節を第一にする、と情報を流してくれた人物から聞いていた。初めて行った時には「知らない」と追い返された。態度が悪かったのだろうか、と身なりを整え行った二回目には、村長はいなかった。もうやめようかと思いながらもすがるところがほかにない俺はしつこいと思われてもしょうがないとやけになりながら三回目も村中を回った。もう帰ろうかと思いながら途方に暮れていた俺の様子を遠くで見ていた村長が自宅の奥の間に通してくれた。そして優しい香りのする温かいお茶をそろそろと注ぎながら俺の話をまっすぐ俺の目を見つめながら真剣に聞いてくれた。俺は堰を切ったように今までのいきさつを話した。片言の中国語に筆談、身振り手振りと汗だくになって説明する俺を見て奥で覗いていた娘さんが微笑みながらタオルを渡してくれた。村長にも何とか伝わったのか、一休みするよう言ってくれた。

「話は大体わっかた。少し時間をくれ。知り合いに聞いてきてやる。今日はもう遅いからうちに泊まると良い。おい、紅美(ホンメイ)食事の用意をしなさい。あとこの若者に部屋を用意してやりなさい。」

dive2に続く・・・

dive2

  • 2020.04.03 Friday
  • 20:01

dive2

そう娘に言いつけるとゆっくりとしてしかし無駄のない動きで自分は外に出て行ってしまった。こじんまりとしていて清潔感というよりどこか凛とした部屋に案内されほっとして横になり休んでいると先ほどの娘、紅美が呼びに来た。さっきは普段着のようだったが、今度はとてもきれいな民族衣装に身を包み髪にも飾りがいっぱいでちょっとびっくりしている俺を微笑みながらじっと見て

「お待ちしておりました。」

といった。

(なんだ『、お待たせしました』の間違いじゃないのか)

と思いながら気の抜けたようにふらふらついていった。寝起きでぼーっとしていたというよりその美しさに見とれていたのだ。

(いいにおいだな。日本にはいないタイプでなんかいいなー)

と思っていた俺の心を背中で感じ取ったのか急に振り返って

「びっくりしないでね」

と言い最初に通してくれた部屋よりもさらに通路を奥に進み、突き当りの壁にかかる龍の口の中に手を入れると何かが動き出した。おどろいてる俺をよそに紅美は先ほどまでの愛らしい顔つきとは変わり、真剣なというかちょっと怖いぐらいの表情だった。木の軋む音と振動が止まると真っ赤な横の壁が割れ中から村長が出てきた。村長まで民族衣装を身に着けていた。おそらくこれがこの村の正装なのであろうがこんな豪華というか、美しい衣装を見たのは初めてだ。さらに驚くのは表から見た村長の家の大きさからは考えられないほどの広さの広間にこの村の住民すべてが正装をしてひざまづいているのだ。あっちにいるのは今朝話したおっさん。こっちにいたのは畑にいたおばあさん。川で野菜を洗っていたお姉さんに俺を追いかけまわしていた子供。みんな普段着というか野良着に近いような格好で不愛想だった人たちがさっきの紅美のような顔つきをしてこっちを見ている。何が起こっているのかきょとんとして紅美を見ると俺の手を取り上座の中央の席に案内してくれた。そろそろと座る俺の右には村長、左には紅美が座り皆も席に着いたときには静まり返っていた。村長が盃を持ち立ち上がって皆の期待を受け、静けさを割って厳かに話し出した。

「我ら一族の恩を返す時がやってきた。一同のもの今こそ我らの宿命を果たすとき。この若者にわれら一族の力を与えようぞ。」

そういうと盃を高々と掲げ一気に飲み干した。村人たちも一斉に立ち上がり覇気とともに盃を開けた。紅美が一人席を立ち中央に行くとゆっくりと歌い出した。なんと美しい声だ。清らかなその歌声からは何とも言えぬ温かさと光を感じた。歌っている歌詞は全く理解できないのになぜだか村人と一緒に俺まで泣いていた。それを見た村長は俺の肩を抱き、酒を注いだ。そこでふと我に返った俺は思い出した。上座近くにいる村人たちは前にこの村に来た時にそっけなく俺を追い返した人たちじゃないか。どういうことだ。そんな風に怪訝な顔をしている俺に村長がこの村の伝説をじっくりと話してくれた。

dive3nに続く・・・

dive3

  • 2020.04.03 Friday
  • 20:18

 昔々、その村長の何代も前の御先祖の時代にその時の村長の娘が奇妙な病にかかった。医者に診せたが一向に良くならない。煎じ薬をいろいろ飲ませたが日に日に弱っていき目眩をおこし倒れることもしばしばになっていったという。「これは、もう時間の問題じゃ、助からん。」という医者を見限り、あきらめきれない村長は村人を四方の大きな町に行かせ、片っ端から名のある医者に症状を話し何か治療法がないか尋ね廻らせた。そして、村長は,伝手をたどって都に行き、大金をはたいて御天医にまで尋ねたのだが、いい返事は返って来なかった。それどころか占星術師、風水師、道師、などが大金のうわさを聞いて群がり「祈祷してやる」、「家の向きを変えろ」、「先祖の墓を立て直せ」と押しかけるのを追い返すのでほとほと疲れてしまった。あきらめと疲れでとぼとぼ村へ帰る道すがら立ち寄った山間の町で流行っていた料理屋に目がいった。ほんわかした雰囲気と何とも言えぬ匂いに落ち込んでいた気持ちを元気づけられるようだった。みかん色の看板に笑顔のよく似合うぽっちゃりした店主の風貌が食欲をそそる。だいぶ日も暮れてきて店も閉める間際に入ったので村長が最後の客だった。人気の麺料理を待っている間に接客をしていた女将さんにため息を吐くようにポツリポツリと今までのいきさつを話した。料理を運び終えると女将さんが奥に戻って店主と何やら話し込んでいた。深刻そうな顔が気にはなったがそれよりも食べたことがないうまさの麺料理の虜になり、箸が止まらず一気に食べてしまった。空腹であったこともその理由の一つだろうが、濃厚な胡麻のスープにシャキシャキの野菜、何とも言えぬ香りのラー油にうまみたっぷりの挽肉。「こんなうまい料理は都にもなかった。」あまりのうまさに呆けて娘のことを忘れそうになったその時、奥から店主が現れ、女将さんが外の通りを見回し誰もいないことを確認して扉を閉め鍵をかけた。店に閉じ込められ何が起こるのかと一瞬たじろいだが、満腹感と治療法が見つからない失望感でどうでもよくなっていた。近づいた店主が目の前に座りおかしなことを話し出した。娘の病状を聞かれたあと、何かを決意した顔をして

「誰にも言わないとお前のその娘に誓えるか」

と一言言った。何だかわからないがすがる思いで大きく首を縦に振った。すると店主は何も言わずに奥に戻りまた先ほどの麺料理を作った。そして目の覚めるような青い衣に着替え料理を持って出てきた。使い込まれた衣の背中には『潜航厨師』と書いてあった。そしてどんぶりを机の上に置いたかと思ったその瞬間、店主が何かをぶつぶつ唱え始め手で印を結んだと思うと、閃光とともにどんぶりに飛び込んだのだ。何が起こってるのかもう訳がわからなくなり呆然としている村長が腰を抜かすのと同じ頃に店主がどんぶりから飛び出てきた。
大急ぎで女将さんが水をかけ一生懸命主人の体を布で拭いている。所々火傷を負っているようで赤くはれ上がっていた。

「なんてことを!大丈夫ですか?」

と聞く村長に店主は拳を突き出し開いて見せた。そこには新緑の森に流れる清らかな小川のきらめきのような青緑に輝く見たこともない宝石があった。

dive4に続く・・・

dive4

  • 2020.04.04 Saturday
  • 21:57

「碧緑目石(ブルーアイズストーン)だ。これを削って娘に飲ませなさい。必ずよくなる、あきらめるな。」

と荒い息を落ち着かせながら店主は言った。いくつかの忠告と予言めいたことを言われたが娘のことで頭がいっぱいで紙に走り書きをし、簡単な礼だけを言い夜通し走った。意識がもうろうとしながら街道から外れ森の中の近道を走ったのであちこち傷だらけになり二日がかりでたどりついたころには着ていた衣服はもうボロボロだった。おどろく村人たちをよそに店主に言われたとおりに宝石を削り娘に飲ませた。こんなことが果たして効くのかという疑問はあの店主がどんぶりに潜ったという時点でもうなくなっていた。ようやく飲ませたことにほっとしたのか力尽きて落ちるように眠ってしまった。誰かに揺り起こされ、気づいた時にはもう次の日の昼過ぎだった。眠い目をこすり、聞き覚えのある声に我に返ると、そこには起き上がって元気な娘の笑顔があった。村人には約束通り『どうして治ったのかはわからない』と言ってごまかしたが、さすがに娘には訳を話し一緒にお礼を言いに行くことにした。そしてあの日行ったはずのあの街に行ったのだがその場所にあの店はなかった。

「おかしいな、確かにここだったはずだが、店の名前が思い出せない。確か笑い声のような・・・呵・・。」

靄がかかったように記憶がよどむ。なくなっていたというよりも痕跡すらないのである。町の人に尋ねても聞いたこともないという。仕方なしに村に引き返した。

自分が物の怪に騙されたのかともと家に帰ると

「そういえば・・・」

と懐の返しの中にねじ込んでおいた一枚の紙きれを思い出し、手に取った。あの時に走り書きにした紙だ。いくつか忠告を受けたのにまともに読める字はこの字、『青龍寺、龍恵和尚』とだけ書いたその紙をもって村長は近くの寺に走った。その寺の和尚に聞くとそれは中国密教の総本山の和尚の名だということが分かり早速娘とともに青龍寺を訪ねることにした。

たいそうにぎわう寺のふもと町に着くと早速町の人に寺と和尚のことについて何か知らないか聞いてみた。どうもこの町は寺のおかげで各地から人がひっきりなしにやってくるらしく、宿屋などたいそう繁盛していた。食べ物屋、特にあの時食べた麺料理に似たものが名物のようで、聞くその料理は「担々麺」というものであることが分かった。しかし記憶にあるあのミカン色の看板も、あの時嗅いだあの匂いにも会うことはなかった。店を探しても見当たらないのでてっきりあの店主が和尚だと思い聞いてみると風貌も背格好もまるで違っていた。すぐに寺に向かおうとしたが、密教だけに秘密なことが多いらしく山門には門番がいて部外者は一切入ることを禁じられているという。どうしようかと悩んでいると町の人が何か寺に頼みごとがあるなら町に買い出しに来る青龍寺の修行僧に伝言すると言うのでそれらしき人に和尚にこれまでのことを書いた手紙を渡してくれるように頼み、この町の宿屋に泊まることを伝え返事を待った。

dive5に続く・・・

dive5

  • 2020.04.05 Sunday
  • 18:48

 それから待つこと2日、この前の修行僧と比べると身なりも顔つきも数段上の位であろう藍染の衣を着た僧侶がやってきた。

「李さん、私は青龍寺、龍恵の弟子の円鶴と申します。お待たせして申し訳ありませんでした。師龍恵は行の最中だったもので知らせることができず、遅れてしまいました。どうかお許しください。よろしければ寺のほうへお越しいただいて師と直接お話しいただければと思いますが、いかがでしょうか。」

即座に了解し、身なりを整えて娘と二人で寺に向かった。寺までの道には藍染の原料である蓼藍が群生しており、この寺が収入源として藍染をしているであろうことを容易に悟らせた。迎えに来た円鶴という僧侶が着る藍染の衣もその色はほかで見るより鮮やかなものだが、あの時の主人が着ていたものと比べると大分見劣りしてしまう。藍染とはこれほどまでに奥が深いものかと、考えながら山道を登っていくとようやく山門が見えた。円鶴の姿が見えたのだろうか門がゆっくりと開いていく。重そうなその門は一切を拒絶するかのように分厚く頑強で、また入ったものは外に漏らさない意思を感じさせた。門に近づくとその向こうに羅漢像が立ち並ぶのが見える。屈強な羅漢たちのにらみに気の弱い者たちなら逃げ出してしまいそうであった。綺麗に掃き清められた参道を見るだけで背筋が伸びそうなこの風景にさらに気を引き締められる巨大な仁王像が奥に待ち構えているのが見えた。ようやくその洗礼が終わると寺の玄関口に何人かの僧侶が並んでいるのが見える。みな揃いの藍染の衣を着ているので赤い柱によく映えて見える。その一列に並んだ青い塊がバラバラになりこちらへやってくる。その中でも最も鮮やかな藍を着ている僧侶が

「ようこそお越しいただきました。さあ奥で和尚がお待ちです。」

そういわれて本堂をよけて奥の小さな庵に案内された。そこへ着くまでの間どこからか武道訓練のような音が響いていたのを聞いた。そうかと思えば読経の声、またずしんという地響きに驚き、何か得体のしれないものが近くに居そうな恐ろしさすら感じびくびくしながら案内されるままに建物に入った。入るとなぜかその中は静寂に包まれ、一人佇む小柄な人物に目を丸くした。あの主人と同じ鮮やかな藍色の衣を着てそこにいるその人物からはなぜか軽やかで暖かな春の風を思わす風が吹いていた。

「待っていましたよ、あなたが来るのを。私にはあなたがここに来るのがわかっていました。あのものに会ったのですね。そしてあの石を使ったのですね。これからあなた方一族の宿命についてお教えします。そして戦いの準備を。」

「あの、いったい何の話ですか、娘の病を治したあの石に何かあるのですか。あの方のことも知っておられるのですか。」

dive6へ続く・・・

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